《健康保険制度》被扶養者の認定要件変更
令和7年10月1日から、19歳以上23歳未満の被扶養者に関する認定要件(健康保険制度)が変更されました。
今回は、令和7年7月4日に厚生労働省より発せられた通知(保発0704第1号・年管発0704第1号)等に基づき認定要件の変更について解説します。
一 見直しの背景
従来の認定要件(年間収入130万円未満)は、被扶養者が就労しようとする場合において、就業時間や収入を一定範囲に抑えざるを得ないという就業調整の実態を生んでいました。
昨今、社会全体で人手不足が深刻化しており、特に若年層の就業意欲を阻害しない制度設計が求められていたところです。
令和7年度の税制改正において、現下の厳しい人手不足の状況における就業調整対策等の観点から19歳以上23歳未満の者への「特定扶養控除の見直し」と「特定親族特別控除の創設」が行われたことを踏まえ、健康保険制度においても整合性を図り、認定要件が見直されることとなりました。
二 変更内容
「19歳以上23歳未満の認定対象者(被保険者の配偶者を除く。)」は、被扶養者の認定要件のうち、年間収入の要件が「150万円未満」に引き上げられました。
従来の「130万円未満」の要件は、60歳以上または障害者等に対して「180万円未満」。となる特例を除き、全年齢において共通していましたが、今回の見直しは19歳以上23歳未満の範囲に限って変更されたことに注意を要します。
三 変更後の認定要件の取扱い
「150万円未満」の要件は、具体的には次のように取り扱われます。
(1) 19歳以上23歳未満である認定対象者(以下「認定対象者」と表記)が被保険者と同一世帯の場合
➀ 認定対象者の年間収入が150万円未満であって、かつ、被保険者の年間収入の2分の1未満の場合は、原則として被扶養者に該当するものとされます。
② ➀の条件に該当しない場合であっても、当該認定対象者の年間収入が150万円未満であって、かつ、被保険者の年間収入を上廻らない場合には、当該世帯の生計の状況を総合的に勘案して、当該被保険者がその世帯の生計維持の中心的役割を果たしていると認められるときは、被扶養者に該当するものとして差し支えありません。
(2) 認定対象者が被保険者と同一世帯に属していない場合
認定対象者の年間収入が、150万円未満であって、かつ、被保険者からの援助に依る収入額より少ない場合には、原則として被扶養者に該当するものとされます。
(3) 前記(1)および(2)により被扶養者の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなると認められる場合
その具体的事情に照らし最も妥当と認められる認定を行うものとされます。
(4) 前記(1)から(3)の取扱いによる被扶養者の認定
通知の適用日(令和7年10月1日)後の被扶養者の認定について行うものとされます。
したがって、適用日より前に遡って申請する場合、適用日前の期間については従来要件(130万円未満)が適用されます。
(5) 被扶養者の認定をめぐって、関係者間に問題が生じている場合
被保険者又は関係保険者の申し立てにより、被保険者の勤務する事業所の所在地の地方厚生(支)局保険主管課長が関係者の意見を聴き適宜必要な指導を行うものとされます。
四 認定に関するQ &A
前記の通知と併せて発せられた「19歳以上23歳未満の被扶養者に係る認定に関するQ&A について」(厚生労働省)を基に、認定要件見直しと関連する事項をお伝えします。
Q 1 なぜ19歳以上23歳未満の被扶養者に係る認定について年間収入の要件を変更するのですか。また、なぜ配偶者は今回の変更の対象とならないのですか。
A 1 今回の見直しは、令和7年度税制改正において、19歳以上23歳未満の親族等を対象とする特定扶養控除の見直しおよび特定親族特別控除の創設が行われたことを受けて、これらの税制措置との整合性を図るため、健康保険制度における同年齢層の被扶養者認定要件が見直されたものです。
配偶者は、所得税法上、特定扶養控除の対象とはならず、別途「配偶者控除」または「配偶者特別控除」の適用を受けるため、今回の健康保険制度における見直しの対象には含まれていません。
なお、配偶者とは、届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含みます。
Q2 学生であることは要件ではないのですか。
A2 税制改正における取扱いと同様に、学生であることの要件は求められていません。あくまでも、年齢によって判定することとされています。
Q3 年齢要件(19歳以上23歳未満)については、いつの時点で判定するのですか。
A3 所得税法上の取扱いと同様に、その年の12月31日現在の年齢で判定します。したがって、19歳の誕生日を迎える年から22歳の誕生日を迎える年における年間収入要件が「150万円未満」となります。
これまでの健康保険制度には無かった年齢の判定方法のため注意を要します。
例えば、N年10月に19歳の誕生日を迎える場合には、N年(暦年)における年間収入要件は「150万円未満」を用いて判定します。
なお、健康保険法等における取扱いと同様、民法の期間に関する規定を準用するため、年齢は誕生日の前日において加算することから、誕生日が1月1日である者は12月31日において年齢が加算される点に留意してください。
Q4 年間収入が150万円未満かどうかの判定は、所得税法上の取扱いと同様に、過去1年間の収入で判定することとなるのですか。
A4 年間収入が150万円未満かどうかの判定は、従来と同様の年間収入の考え方により判定することとなります。具体的には、認定対象者の過去の収入、現時点の収入又は将来の収入の見込みなどから、今後1年間の収入を見込みます。
Q5 今回の取扱いを踏まえ、被扶養者の削除の届出の取扱いに変更はありますか。
A5 被扶養者の削除の届出の取扱いに変更はありません。
(参考) 被扶養者の削除
被扶養者の認定後、保険者は少なくとも年1回は被扶養者に係る確認を行うことが望ましいとされています。
その結果、被扶養者の要件を満たしていないことが判明した場合、➀認定時には誤り(瑕疵)がなく、その後の事情により被扶養者の要件を満たさなくなった場合には、要件を満たさなくなった時点以降で被扶養者を削除する届出を提出させる、➁認定時に誤り(瑕疵)があり、当初から被扶養者の要件を満たしていなかった場合には、認定時に遡って取消す、とされています。

