取適法への対応は万全ですか?
今年1月1日に「下請法」が改正され、「中小受託取引適正化法(通称:取適法(とりてきほう)」として新たに施行されました。
法律の目的は下請法から変わらず、委託事業者(発注側)による優越的地位の濫用を防ぎ、中小受託事業者(受注側の中小事業者)の利益を守ることですが、適用対象となる取引や事業者の範囲が拡大されるなど大きく変わるため、委託側も受託側も新ルールをしっかり理解しておくことが必要です。
近年、労務費・原材料費・エネルギー費など急激にコストが上昇する中、受注側の中小企業者が発注側に対してコスト上昇分を価格に転嫁できないケースが社会問題になっていました。
このような中、賃上げの原資を確保し、サプライチェーン全体で適正な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を目指す上で、従来の下請法では対応に限界があったことから、委託取引のルールが大きく見直されました。
◇◇◇ 実務上、必要な改正のポイント ◇◇◇
(1) 用語の見直し
「下請」という上下関係を連想させる用語が廃止され、次のように変更されました。
・ 下請代金支払遅延等防止法 → 製造委託等に係る中小委託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律(中小受託取引適正化法、通称:取適法)
・ 親事業者 → 委託事業者
・ 下請事業者 → 中小委託事業者
・ 下請代金 → 製造委託等代金
(2) 対象事業者の基準の拡大
下請法は「資本金」規模のみで適用対象を判断していましたが、取適法では「従業員数」による基準が新たに追加されました。「資本金基準」または「従業員基準」のいずれかを満たせば適用対象となります(表参照)。
急成長のスタートアップやIT企業では、資本金は小さいものの従業員数は多いケースがあり、従来の下請法では対象外だったにもかかわらず、今後は委託事業者として義務を負う可能性があります。
(3) 対象取引の拡大
従来の製造委託、修理委託、情報成果物作成委託、役務提供委託に加え、「特定運送委託」が新たに追加されました。
特定運送委託は、事業者が製造・販売等や修理を請け負った目的物の引き渡しに必要な運送に限定し対象拡大されました。無償で荷役・荷待ちを強要される物流業の不当慣行に対応するものです。

(4) 委託事業者の禁止行為の追加
① 協議に応じない一方的な代金決定の禁止
取適法の改正内容で最も実務的影響が大きいのが、「協議に応じない一方的な代金決定の禁止」の新設です。
下請法でも「買いたたき(不当に低い価格の設定)」は禁止されていました。取適法では、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず協議に応じなかったり、必要な説明を行わなかったりして一方的に代金を決定する行為が明示的に禁止されました。
② 報復措置
委託事業者の違反行為を中小受託事業者が公正取引委員会などに申し出たことを理由に不利益な取扱いを受けた場合、情報提供先として事業所管省庁への通報が可能となりました。
➂ 支払条件の見直し
発注した物品等の受領日から60日以内で定めた支払期日までに代金を支払わない行為は禁止されており、2026年度末の手形廃止方針と連動し「手形の交付」や「電子記録債権や一括決済方式のうち中小受託事業者が支払期日までに代金相当額の金銭と引き換え困難なもの」が禁止されました。
(5) 委託事業者に課される義務の追加
① 発注内容等の明示
中小受託事業者に発注内容等を書面又は電子メールなどで明示する義務。
法改定により中小受託事業者の承諾がなくても可能。
② 遅延利息の支払い
支払期日までに代金を支払わなかった場合、物品等の受領から60日経過した日から実際に支払う日までの日数に応じ、中小受託事業者に年率14.6%の遅延利息を支払う義務。
法改正で正当な理由なく支払代金を減額した場合、減額した日又は物品等の受領日から60日を経過した日のいずれか遅い日から減額分を支払う日までの期間の遅延利息を支払う。
◇◇◇ 今やるべき対応 ◇◇◇
取適法は法務部門だけでなく営業・経理・購買・調達など複数部門で実務変更が必要です。
(1) 取適法に該当するかの確認
資本金基準だけでなく、従業員数基準に該当するかを確認します。
(2) 用語修正と条項見直し
取引基本契約書・業務委託契約、発注書・注文書のひな型、コンプライアンスマニュアルなど社内規程、取引先向け説明資料など書類を棚卸ししましょう。
「親事業者」「下請事業者」「下請代金」等の旧用語はすべて新用語に修正します。また、受注側から価格協議申入れの応答義務に沿った価格協議条項を追加し、手形払い削除や60日以内 の支払設定の支払条件条項の見直しが急務です。
(3) 価格協議の求めがあった際のフローの整備
最も注視すべき「一方的な代金決定の禁止」への対応として、受注側から価格協議の求めがあった際、いつ・どのように・どんな説明をしたのか回答内容を管理し記録として残します。
取引記録の電磁的保存は2年間必要です。
(4) 支払条件・手段の実態確認
経理・財務部門と連携し、現在、手形・電子記録債権で決済している取引を洗い出します。支払期日までに満額相当の現金を受け取れるかが判断基準です。割引コストが生じる電子記録債権やファクタリング等についても、個別に検討が必要です。
銀行の振込手数料を製造委託等代金から差し引いて支払うことも減額に当たるため、注意しましょう。
(5) 会社全体への統制
「価格協議を無視していないか」、「手形支払いは認められない」という2点は最低限、会社全体に周知させましょう。特に営業担当者など現場レベルでの理解が必須です。子会社や関係会社を含めた一元管理でグループ全体の取適法コンプライアンス教育の企画を計画的に実施してください。
すでに施行された取適法に早急に対応し仕組み化しましょう。

