経営理念
「求人を出しても応募が来ない」「原材料や燃料の値上がりで、毎月の支払いが厳しい」「AI だ、デジタル化だと言われても、正直何から手をつければいいのかわからない」―こうした悩みは、今やどの会社も抱えているのではないでしょうか。
先の見えない変化が続く時代だからこそ、「自分たちは、何のためにこの仕事をしているのか」という拠り所、つまり「経営理念」の存在が、これまで以上に意味を持つようになっています。
///// 経営理念とは、「我が社は何のためにあるのか」を言葉にしたもの /////
近年、大きな変化の時代を迎えています。人手不足、原材料費の上昇、AIをはじめとする新しい技術への対応など…。
日々の経営は、目の前の課題に追われる毎日です。落ち着いて先のことを考える余裕などない、という方も多いのではないでしょうか。
しかし、こうして周りの状況がせわしなく変わる時代だからこそ、自社が「何のために存在しているのか?」「どこへ向かうのか?」を明確に示す軸が必要になります。その軸こそが「経営理念」です。
経営理念とは、企業の存在目的や社会的使命、経営者の価値観や志を言葉にしたものです。単なるスローガンや標語ではありません。
もちろん、利益を出すことは経営者として欠かせない仕事ですが、利益だけを追いかけていては、会社は長くは続きません。どのような価値を社会に提供し、どのような会社を目指し、顧客や取引先、社員、そして地域社会とどのような関係を築いていくのか。その根本的な考え方を示したものが経営理念です。難しく言えば、「会社の存在理由」ということになりますが、もっと普通の言葉にすれば、「うちの会社は、何のためにあるのか」という問いに対する答えだと考えていただければと思います。
経営理念が重要な理由は、企業を取り巻く環境がどれだけ変わっても、判断に迷わなくて済むからです。市場が拡大し、仕事がどんどん入ってくる時期であれば、正直なところ、誰が経営をしてもそれなりにうまくいくものです。しかし、景気後退や業界構造の変化、技術革新などによって事業環境が大きく変わった時こそ、企業の真価が問われます。
そのような時に経営理念が明確であれば、目の前の状況に振り回されず、「自社は何を大切にするのか」「どの方向へ進むべきなのか」を見失わずにいられます。経営理念は、普段はあまり意識しないものですが、いざというときに会社を支えてくれるのです。
///// 経営理念を大事にしたことが業容・業績の拡大につながった二つの好事例 /////
多くの優良企業が、経営理念を経営の中心に据えています。実際に理念を大事にしながら経営を続けてきたことで、会社のあり方そのものが変わった、という例は決して少なくありません。ここで、二つの事例をご紹介します。
一つ目は、居酒屋でよく見かけるキンミヤ焼酎で有名な、三重県の宮﨑本店です。同社は「酒類・食品の製造販売を通じて社会に貢献できる企業を目指します」という理念を掲げ、焼酎のラベルにまで理念を印刷しました。その結果、社員一人ひとりが理念を自分事として考えるようになり、高付加価値商品の開発やブランド力向上につながりました。理念が、社内に飾られた単なる額縁の中の言葉ではなく、事業そのものを変革する力を持ったのです。
もう一つは、香川県の京兼醸造です。元々は、うどんつゆを作る、ごく普通の製造会社でした。しかし、「味と香りに託して、未来に繋ぐ和心を伝える」という理念の下、「自分たちは本当は何のためにこの仕事をしているのか」を見つめ直したところ、単につゆを作って売るだけでなく、「うどん屋さんの店舗経営を支援する課題解決型企業」へと進化しました。
///// 経営理念の三つの役割 /////
経営理念には、大きく三つの役割があります。
第一に「方向性を示す役割」です。企業活動は日々、無数の判断の連続です。新商品を開発するのか、設備投資をするのか、人材を採用するのか…。そうした判断に迷った時、経営理念が判断基準になります。
第二に「人をまとめる役割」です。会社は一人では成り立ちません。社員が増えれば増えるほど、価値観や考え方は多様になります。その時に理念が共有されていれば、全員が同じ方向を向いて行動できます。理念は組織を一つにまとめる旗印なのです。
そして第三に「社会との約束を示す役割」です。顧客や取引先は、その企業がどのような考えで事業を行っているかを重視する時代になりました。経営理念は企業の人格であり、信頼の源泉でもあります。
///// 経営理念は「つくって終わり」ではなく、毎日の仕事の中で活かしてこそ意味がある /////
では、経営理念はどのように作ればよいのでしょうか。
➀ ~ 振り返り ~
まず大切なのは、「儲けたい」「会社を大きくしたい」という願望ではなく、「なぜこの事業を行うのか」を考えることです。創業の動機や経営者としての原体験、自社の強み、顧客から感謝されることなどを振り返ることが出発点になります。
② ~ 社会に提供している価値 ~
次に、自社が社会に提供している価値を考えます。ここで大事なのは、「自分たちは何を売っているのか」ではなく、「どのような課題を解決しているのか」という見方です。例えば、建設会社であれば、本当に提供している価値は建物を作ることではなく「人々の安全な暮らしを支えること」。食品会社であれば、食品を売ることではなく「豊かな食文化を提供すること」が本質かもしれません。
➂ ~ 言葉にする ~
そのうえで、社員や顧客、地域社会に対して、自分たちはどのような存在でありたいかを言葉にします。その際、難しい言葉や格好良い表現は必要ありません。経営者自身が心から信じられ、社員にもすっと伝わる言葉であることが重要です。わかりやすい判断方法として、
・科学性:誰が見ても納得できる根拠があること
・社会性:社会的責任を全うしていること
・人間性:社員の人格を尊重していること
の3つの視点を備えた経営理念を作ると、厚みがあり豊かなものになります。
④ ~ そして実践へ ~
経営理念は作って終わりではなく、実践して初めて意味を持ちます。
朝礼で話す、経営計画に書き込む、採用活動で伝える、人事評価の基準にするなど、日常の経営の中で繰り返し活用する必要があります。理念が社員の行動基準となり、経営判断の基準となって初めて企業文化として定着していきます。
これからの時代は、人口減少、人手不足、AIの進化、国際情勢の不安定化など、企業を取り巻く変化がさらに厳しくなるでしょう。そのような時代だからこそ、経営理念の重要性はますます高まります。変化する手段や方法論ではなく、「何のために存在するのか」という不変の目的を持つ企業だけが、変化を乗り越えながら成長し続けることができます。経営理念とは、企業の魂であり、未来への約束です。そして、経営理念を土台として経営方針や経営計画を定め、社員と共に実践していくことこそが、持続的な企業成長への第一歩なのです。

